避戦戦略の関連情報
「そう。ドイツ軍は、【戦わないこと】を選んだのよ。もちろん、本当に戦わなかったわけじゃないけど。とにかく、フランスの対ドイツ絶対防御要塞マジノ線には隙間が存在した。アルデンヌの森とセダンというところにね。そこは、イギリス・フランス・ドイツの将軍たちによって戦車や車両が通り抜けられない、という常識があって、ほったらかしにされていたわけね」
「で、マンシュタインというドイツ軍の将軍が、『ここムリすりゃ通れるじゃん。敵も(警備用の)弱いのしか居ないし、そしたら簡単じゃん』とか言い出したワケよ」
「『じゃん』て・・・」
「ただ、伝統的な作戦に固執するドイツ軍上層部はガチで連合国軍と勝負するつもりだったから、『ムリ』『いや出来ますって』『そんな裏技みたいなのヤダ』とかいう感じで、マンシュタイン案は拒否されたのね。そこにヒトラーがやってきて『ちょっとムリすりゃ出来るんだったら、やっちゃえやっちゃえ』って横槍を入れたわけよ。独裁者の横槍だから、だれにも逆らえない。というわけでやってみたら大当たりなわけよ」
「大当たりって・・・」
「とにかく、一番手ごわい敵はマジノ線にこもっているわけよ。その隙間からわきでたドイツ軍は、手ごわい敵にぶつかることも無く、鼻歌混じり(嘘)でマジノ線とパリの間を遮断して言ったわ。補給を遮断されたら軍隊ってのはオシマイだから、連合国軍は何がなんだかわからないうちに退却したり降伏したり同士討ちしたり一部は略奪したりしていたわけよ。大国フランスは実質一ヶ月で征服されたわ」
「さらに付け足せば、電撃戦を可能にした装甲部隊の【常軌を逸した移動速度】も、【ちょっとムリすりゃ出来るじゃん】の精神によってできたものなのね。つまり、歩兵や戦車だけを移動させても、移動に手間のかかる重砲が不足する。だったら、戦闘機に重砲の代わりをさせりゃいいじゃん、と。こうして、常識をすこしずつ無視することによって、ドイツ軍は圧倒的に有利なポジショニングに成功し、フランス降伏まで一ヶ月という非常識かつ非道徳な結果をだしたわけよ。まあ、ワンマン社長のワンマン経営で大成功した中小企業を思い浮かべればいいわけ」
「ドイツ軍が中小企業って・・・・」
「で、あまりの大成功にびびったヒトラーは、ダンケルクという港町に突撃を主張するグデーリアンらの戦車部隊を停止させてしまうのよ。これは第二次世界大戦に決定的な影響をもたらすわ。すなわちドイツ軍の停止している隙に、34万ちかい連合国軍兵士が脱出に成功する。もしここでこの34万人を捕虜にしていれば、戦争はこの時点で終わっていたかもしれないわ。あるいは、英本土進攻、もしくは対英講和と対ソ戦への100%の集中、といくらでも絵は描いてゆけた。けれども、ヒトラーがちょっとびびったせいで、ドイツがもっとも恐れていた長期戦へと突入してしまった・・・ダンケルクの悲劇って言うのは、撤退作戦の最後に取り残された英軍将兵を指して言うことが多いけれど、本当の悲劇はドイツの勝利条件がダンケルク突入延期で失われてしまったことね」
「社長のワンマンによって伸び、社長のワンマンによって滅ぶ。まるでラ○ブドアね」
「ってあの、あまり過激なことは・・・・」
「とにかく、相手の一番弱いところを狙う。敵が準備をしているところ、あるいは強敵のいるところでは戦わない。それを実現するために全ての努力をささげる。【戦わないこと】もしくは【鼻歌混じりで勝てる戦場を探すこと】これが弱者の戦略のすべてよ」
「戦わないこと・・・・なんかカッコ悪いですね」
「そこがあんたの甘いところよ。そんな分別では真珠湾を奇襲した連合艦隊のように海の藻屑と消え行く運命ね・・・」
「れ、れんごうかんたい・・・・???」
「いい加減第二次大戦ネタも長くなったから短くまとめるけれど、山本長官は空母六隻を集中して、【非常識な航空機による奇襲】によって真珠湾で大勝利を収めるポジショニングを達成したわ。けれどもこれは、宣戦布告が失敗すれば早期停戦の目論見が崩れる、そもそもこんな投機的な作戦で戦略上の目的が達成できるのか、などなどの批判があったわ。けれども、見た目の大戦果にまどわされて、山本長官への批判は表に出てこなかった。そして誰にも逆らえない名声を得た山本長官は、そのままミッドウェイ作戦を慣行し、決定的な敗北を喫したわ」
「そもそも、よく言われる重油タンクの破壊、敵空母の撃破やあるいは宣戦布告の期限前の伝達が成功していたとしても、【非常識な航空機による奇襲】は【アメリカの戦意喪失】ではなく【アメリカのマジ切れ】を誘発しなかったかどうかといえば、ひっじょうに怪しいわ。そして日米戦というのはアメリカが日本の10~20倍の国力を持っている以上、アメリカが怒った段階で負けだったのよ」
「つ、つまり日本が真珠湾を奇襲攻撃した段階で、日本の負けは決まっていたと?」
「そういうことよ。そして山本長官はミッドウェイで経営者としてもっともやってはいけないことに手を染めてしまったわ」
「つまり・・・」
【過去の成功体験をそのまま再現しようとする】
【しかもその成功体験に頼りきって杜撰な準備しかしない】
(ミッドウェイの場合は防諜など)
【冷静に考えると成功の確立がそんなに高くない上に、失敗すると会社の資産が半分飛んじゃうようなリスクがある】
【しかもそんなプロジェクト(作戦)に、会社の資金をトコトンまでつぎ込む】
「そしてミッドウェイで敗退した日本海軍は、以降はジリ貧になってひたすら守勢に回っていくわけね」
「そう。日本海軍が弱者であるという己の立場を忘れて、ガチの勝負に出てしまったのが一番の敗因なのね。つまり、弱者が勝つためには・・・」
【勝てない勝負は行わない】
【リスクは取らない】
【勝てる戦場・やり方を選ぶ】
【勝てる戦場・勝てる勝負に全力を注ぐ】
「な・・・。なんか・・・。弱虫ですね・・・」
「だからいってるでしょう! 弱者の戦略だって! ・・・しょうがないわね。現代は不公平で、非対称型の世界だということを、説明しないといけないわね」
「非対称型???」
「続くわよっ」
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